23.柔剛論争にけりをつけた棚橋論文

柔剛論争が視点の違った論議を重ねて、平行線論争の暗礁にのり上げようとしていた時に、結果的には柔剛論争に終止符を打たせる事になったフレッシュな論文が発表された。
建築雑誌、昭和10年5月号に掲載された「地震の破壊力と建築物の耐震力に関する私見」と題する、当時京都大学の少壮助教授であった棚橋諒先生の論文がある。棚橋博士はその序文の中に、既往の建築構造学で取っている仮定や理論の進め方では、今までの地震の破壊力の度合いや、それによって破壊された構造物の状況を説明しきれないきらいがある。
ここに提案する新しい仮説によれば、既往の地震と震害の関係を従来の仮定以上にかなりよく説明できるし、この仮説から新しく耐震構造を見直すなら、新しく研究しなければならない多くの問題が展開してくる。
新しい仮説とは、 「地震の破壊力は最大速度の二乗に比例する」「構造物の耐震力は構造物の貯え得るポテンシヤル・エネルギーの量による」 の2点で、これは在来の「地震破壊力は、最大加速度に比例する」および「構造物の耐震力は安全に加えられ得る水平力の大きさに比例する」という点と全く異なった観点に立つものであると述べている。


引用文献 「身近な耐震設計法 前川洋一著 学芸出版社」



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