13.線形と非線形

震光三 理論と実際 小堀鐸二 著 (鹿島出版会) 抜粋


線形と非線形

一般に地震動に含まれる周期成分に関する現在までの知見によれば、我々の設計する中層程度までの建築物は、大地震時にその一次固有周期に極めて近い周期成分をもつ地震波の作用を受けると考えるのが妥当のようである。すなはち、最も数が多い15階建て位までの建築物は、地震波との非定常的な共振は避けられない。そして線形理論による限り、建築物と共振する周期成分が多ければ多いほど、それだけ大きな応力と変形が建築物に生じることになる。従って、このような応力や変形に弾性範囲内で耐える建築物は実に過大な部材断面が必要となる。建築物の耐震安全性を線形理論のみによって覆い尽くそうとするこうした無理が生ずる事になる。そこで筆者は、非線形理論の考え方を導入して次のように考察を進めた。まず、地震波と建築物の周期が一致して共振を起こすと建築物の変位振幅が大きくなり、高次の不静定構造物である建築物の内部に応力が集中する個所が幾つか生じ、応力がある限度を超えると、それらの個所は弾性領域を超えて塑性状態に入る。それらは選ばれた材料や構造の手法により異なるが、極わずかの変形から徐々に降伏して、塑性領域にいるものや、ある限界から急激に降伏を示すようなものなど様々である。いずれにせよ、こうした内部降伏は不静定次数の高い建築物の持つ復元力特性を非線形化する。これによって、建築物の固有周期は時間とともに変化(長周期化)し、共振からはずれて建築物の振動がある程度以上には発展する事を妨げるばかりでなく、内部降伏によって費やされる消散エネルギーの為に振動は抑制され減衰する。注意すべきは、メキシコ地震にように、時間と共に長周期化するような非定常波が入力する場合、非線形化の進展により建築物も長周期化し、入力波の長周期化と共振して変形が抑制されずに大きくなる可能性も皆無と言えない事である。したがって、非線形解析にあたっては地盤条件などの特殊性も踏まえて、入力地震波の非定常性を十分考慮した検討が必要となる事は言うまでもない。


人為的非線形性

構造部材を主として常時に働くものと地震に働くものとに分け、前者を構造主体(架構)後者を耐震部材(水平抵抗部材)と仮に名づけるならば、建築物の内部降伏は耐震部材に局限し、いかなる破壊的地震に際しても構造主体を安全に保つ役割をその耐震部材に与える事であろう。すなはち耐力壁あるいは筋交等がまさしくこの耐震部材の役目を果たすべきものである。そして、これらが地震動との非共振化が図られる性質を有していれば最も望ましいことになる。


建築、土木分野の課題

建築・土木分野の構造工学では、研究対象の非線形挙動を避けて通れない特徴的な面をもって持っている。他の工学分野では、この非線形挙動はできるだけ生じないように、又は、例え生じた場合にもいかに安定させるかに終始している。それに対して加えられる外乱のエネルギーレベルの巨大性により、応答レベルの大小に応じて設置されている地盤の塑性化や、構造物の骨組み自体や二次部材の寄与等の変動により剛性が変化して、構造物はいわゆる非線形の振動を呈するのが実際の現象である。耐震構造においては、大変形時の非線形挙動を逆に構造安全性のよりどころとさえし続けてきたのである。制御対象がこのような性質をもっていることも他分野と大きく異なる面であり独自の研究開発が求められる。





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