12.ストラクチャー書評 事例に学ぶ「建築リスク入門

社団法人 日本建築学会 編著 


本書は建築学会による応用事例からリスクの概念を記述する挑戦的な図書である。第一章はリスクの基礎概念を多角的観点から身近な事例を引用し、かつ、平易な文体で纏めている。リスクの直訳は「危険」「損害の恐れ」であるが、リスクには良く耳にするリスクマネジメント(フリー百科辞典「ウイキペディア」にはリスクマネジメントとは、リスクを組織的にマネジメントし、ハザードの損失などを回避もしくは、それらの低減をはかるプロセスを言う)に始まり、リスク・ファイナンス、リスク・アセスメント、リスク・ヘッジ、リスク・コミケーション、リスク・コントロ−ル、リスク・トランスファー等など。多様な視点であふれている。いかに現代人がリスクに関心があり又、リスク回避を求めているかの証である。その中で著者は「建築リスク」の視点からの入門書と位置付けている。3章に書かかれているように「構造設計者が性能設計を達成する為に、与えられた経済的成約条件のなかで、予測可能な災害や事故等に対する可能な限りの低減を図ることは真にリスクマネジメントをしていることである。」但し、「真の耐力」「真の荷重」は不確定であり確率論をもちいざるを得ないこと、又、災害を未然防ぐ説明として「直列」「並列」で説明する等、建築技術者が日頃意識しない多角的観点からの記述は非常に分りやすく、難解な概念を入門書として取り組んだ編者の苦労の成果である。個人的な考えでは人間の生き方そのものが「リスク」そのものであり、リスクの全くない、平穏無事な社会を想像すると人間の学習力、創造力は退化し、挑戦後に味合う達成感は無くなり、かつ、他を思いやる事の無い自己中心的な人間ばかりの世の中になる気がする。多様な価値観、生き方を求めてリスクをリスクと捉えず、自己の成長の糧にする。そのようなリスクに対する見方もあると思われる。
我々の業界においては、耐震偽造から端を発した対応策が、リスクと責任を恐れ、回避するためだけに特化しているとの見方がある。いずれにしても多様なリスクの概念を追及する本書は真に時宜を得た良書として是非、推薦したい。          
真崎雄一




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