14.ストラクチャー書評 木造住宅の耐震設計

樫原健一・河村廣 著
技法堂出版/A5版/269頁/定価 本体3200円+税


本書は第一線で活躍する建築構造技術者による「木造住宅の耐震性」と地震学者による
「リカレント建築提案」に関する図書である。
従来、書店に並ぶ木造住宅の関連図書は木造専門の学者、宮大工、建築デザイナーによる入門書、あるいは、木造建築評論家によるセンセーショナルな見出しもの等が圧倒的である。現状、木造に携わる構造技術者がいかに少ないか物語っている。元来、構造技術者は縁の下の力持ちを良しとするものが多く、世間に物申す姿勢に欠けることも要因としてある。その点、本書は社会における発信を十分意識して「構造技術者をめぐる社会のネットワーク」の観点から、職能、性能規定、法体系、伝統工法と現代工法の違い、耐震改修、耐震診断、木造制振工法のキーワードを掲げて極力数式を避けながら詳しく記述している。特に伝統工法と制振工法においては、筆者の長年の実務を通した研究成果を現状の構造力学の考え方に加えて先端的提案を述べている。現在の耐力、剛性のみを評価軸とする壁量計算の時代にあって「木造住宅における限界耐力計算法の体系化とその普及」に寄与した功績は素晴らしいものである。又、耐震改修においては筆者の指摘するように現実の既存不適格住宅は理想的な伝統工法(土壁、貫、柱梁の仕口の耐力機構)でも、現代工法(筋交い、合板、仕口金物の耐力機構)でもない中間的な性格のものである。つまり、安全のクライテリアが異なり、現在では正確な計算法が存在しないものであるとの内容は真に同感である。我々、構造技術者が責任を持って木造住宅の耐震改修に取り組むのに躊躇せざるを得ない理由はここにある。文中に述べられる著者の建築資材のリカレント性(転生/輪廻)、つまり、伝統木造をリカレント建築と捉える建築哲学と制振工法による現代的な工法による継承は、地球環境問題の解決の一端としても大切な視点である。本書が構造技術者のみならず、広く一般市民に対しても読み易い内容として推薦いたします。
真崎雄一




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